STAFF BLOG

2020.07.27更新

例年なら、梅雨明けして、セミの鳴き声と真夏の日差しが照り付けるころ、そして本来であるならば、オリンピックで都内は賑わい、テレビでも連日オリンピックのメダルラッシュを伝えているはず。

しかし、新型コロナウイルス感染のせいで、夏の高気圧すら来るのをためらっているかのうような状態。

そのような湿った毎日が続く中、前回膀胱癌に対する全身温熱療法(HAT)の成果に続き、今回は肝細胞癌に対する自家がんワクチン療法の紹介です。この患者さんは、肝炎ウイルスによる肝炎から肝細胞癌を発症し、その後肺転移、そして仙骨への転移もあり、当院にて自家がんワクチンによる免疫療法を行うことになりました。これまでの治療は、総合病院にて肝細胞癌に対する手術、またその後の肺転移に対する手術をそれぞれ行い、その後化学療法も行ってましたが、副作用もあり化学療法は中断し、また仙骨転移に対して、放射線療法を5回仙骨に対して行ったということでした。その間、腫瘍マーカーであるアルファーフェトプロテイン(AFT)が、じりじりと上昇し、放射線治療中の採血では1400以上であったものが、その3週間後の放射線療法後に始めた自家がんワクチンにより500にまで減少したのです。もちろん放射線療法の治療効果もあるものと思いますが、これだけ早い段階での成果に患者さんも励みになっているようでした。先日2回目の接種も終わり、3回接種で一区切りとなりますが、副反応もほとんどなく、日常生活に支障がないことがこの治療の良い点でもあるかと思います。

この治療は、固形癌の手術後、その癌腫瘍の一部からワクチンを作るという方法で、この不活化した癌細胞の情報を自分の免疫系に覚えさせ、残る癌細胞を攻撃するというイメージのものです。他の免疫療法と違い、何がターゲットとなるかを自分の免疫系に明確に示せるため、特異的であるという点と、副反応、副作用が少ないことも患者さんの負担をとるために有用であると思います。また、治療費も通常の免疫療法の半額程度で、治療は通院で行える、ことなど多くの利点があります。

この治療は、癌腫瘍の検体2グラム以上が必要となるため、手術後であることが条件の一つとなります。したがって、白血病など非固形癌や未手術の症例では適応がありません。どの病院で手術した場合であっても、主治医の先生に癌腫瘍の一部をいただくことで、当院でこの治療を受けることは可能となります。肝細胞癌や脳腫瘍などで多くの実績のある治療ですが、その他の癌に対しても成果が期待できると思います。多くの患者さんに受けていただきたい治療の一つです。

自家がんワクチン接種後2週間

投稿者: 六本木HATクリニック 院長 福田智信

2020.07.12更新

60歳代男性の膀胱癌Stage 4、骨盤内リンパ節転移に対して全身温熱療法(*HAT)を開始しました。

これまで、内視鏡手術と化学療法(1クールのみ)、さらに骨盤内リンパ節転移に対して放射線療法を10回行ったということでした。

現在は、緩和ケアによる治療となっておりますが、実際にはサプリメントによる治療のみということでした。

 

来院時は、しばらく続く食欲低下と体重減少、疼痛による歩行困難のために車いすでの生活を強いられた状態でした。

本来であれば、この全身温熱療法(HAT)は、体力を使うため、独歩で来院できる程度の体力のある方に対する治療を原則としていますが、この患者さんの場合は、体力の衰弱ではなく、疼痛による歩行障害ということで、車いすではありましたが治療に進むことにしました。

まずは適応検査で、体の反応をチェックし、治療による効果が期待できそうか、また本人が治療の継続を希望できるかを診ることとしました。当面の治療目的としては、HATによる体力増進、疼痛コントロールと免疫賦活としました。

 

1回目の適応検査の際にとてもいい感触を得ることができました。はじめはまだ体が慣れていないせいか、体温の上りも緩やかであったものが、徐々に加速がつき始め、5分間の体温上昇を示す昇温速度も、途中0.34(℃/5分)までとなりました。これはかなりいいペースです。さらに、治療を始める前のリンパ球数は930/μLでかなり低めであったのが、目標温(スター時の直腸温から+2.0℃)到達時には、1500/μLとなり、循環血液量の変化等を補正したリンパ球数でみると、一過性ではありますが、19億6500万個のリンパ球の増加となり、補正後のリンパ球増加率は54.91%でした。このリンパ球の増加率は、2回目は69.22%、本施術に進んだ3回目は、89.85%と、回を増すごとに反応が良い状態となっています。また、この3回目には、治療開始前のリンパ球数がすでに1560/μLと1回目のHATの目標温到達時のリンパ球数を上回っていたのです。目標温到達時のリンパ球数は一時的な上昇ではありますが、HATを繰り返し行うことで体質が変わり、循環と代謝改善により、容易にリンパ球が増えやすくなる、すなわち免疫賦活状態になりやすい体に変わるということになります。さらに、適応検査開始時の白血球数は、7950と高値であったものが、3回目にはすでに5650となり、炎症を示唆した好中球の増加が、3回目には半数の正常範囲となったことによるものでした。慢性期の炎症に対しても何らかの好反応を示したことになると考えられます。下に示す血液は、右側が目標温に到達した際の血液で、左側の血液が治療前の血液ですが、右の方が真赤な鮮血であるのがわかります。これは、HATにより循環流速の増した血液が動脈からシャントを介して静脈血に循環していることによるもので、静脈血でありながら、酸素分圧が高い、まるで動脈血と同じような血液となっているのです。患者さんだけでなく、これを目の当たりにした当院の新しいスタッフは、「これはすごい!」とかなり驚いておりました。

 

また、この患者さんは、1回目以降食欲が出るようになり、体重も増えたと喜んでいました。これは、腸内環境の改善につながっており、腸内に存在するリンパ球を活発にし血液中に送り込む要因になっているものと考えられます。

その後、昇温速度も回を重ねるごとに早くなり、何より患者さんの意欲が増して、笑顔が増えたことも治療を進めていてよかったと思う点でもあります。

これからも頑張って治療を進めいい成果が出ることを期待したいと思います。

 

*HAT:Hyperthermia Aqua Therapy 温水を用いた全身温熱療法

 

 HAT前後の静脈血採血

 

投稿者: 六本木HATクリニック 院長 福田智信