例年なら、梅雨明けして、セミの鳴き声と真夏の日差しが照り付けるころ、そして本来であるならば、オリンピックで都内は賑わい、テレビでも連日オリンピックのメダルラッシュを伝えているはず。
しかし、新型コロナウイルス感染のせいで、夏の高気圧すら来るのをためらっているかのうような状態。
そのような湿った毎日が続く中、前回膀胱癌に対する全身温熱療法(HAT)の成果に続き、今回は肝細胞癌に対する自家がんワクチン療法の紹介です。この患者さんは、肝炎ウイルスによる肝炎から肝細胞癌を発症し、その後肺転移、そして仙骨への転移もあり、当院にて自家がんワクチンによる免疫療法を行うことになりました。これまでの治療は、総合病院にて肝細胞癌に対する手術、またその後の肺転移に対する手術をそれぞれ行い、その後化学療法も行ってましたが、副作用もあり化学療法は中断し、また仙骨転移に対して、放射線療法を5回仙骨に対して行ったということでした。その間、腫瘍マーカーであるアルファーフェトプロテイン(AFT)が、じりじりと上昇し、放射線治療中の採血では1400以上であったものが、その3週間後の放射線療法後に始めた自家がんワクチンにより500にまで減少したのです。もちろん放射線療法の治療効果もあるものと思いますが、これだけ早い段階での成果に患者さんも励みになっているようでした。先日2回目の接種も終わり、3回接種で一区切りとなりますが、副反応もほとんどなく、日常生活に支障がないことがこの治療の良い点でもあるかと思います。
この治療は、固形癌の手術後、その癌腫瘍の一部からワクチンを作るという方法で、この不活化した癌細胞の情報を自分の免疫系に覚えさせ、残る癌細胞を攻撃するというイメージのものです。他の免疫療法と違い、何がターゲットとなるかを自分の免疫系に明確に示せるため、特異的であるという点と、副反応、副作用が少ないことも患者さんの負担をとるために有用であると思います。また、治療費も通常の免疫療法の半額程度で、治療は通院で行える、ことなど多くの利点があります。
この治療は、癌腫瘍の検体2グラム以上が必要となるため、手術後であることが条件の一つとなります。したがって、白血病など非固形癌や未手術の症例では適応がありません。どの病院で手術した場合であっても、主治医の先生に癌腫瘍の一部をいただくことで、当院でこの治療を受けることは可能となります。肝細胞癌や脳腫瘍などで多くの実績のある治療ですが、その他の癌に対しても成果が期待できると思います。多くの患者さんに受けていただきたい治療の一つです。